本建て正藍染め

 蒅と灰汁だけを使って発酵の力で建てる藍染め。別名地獄建てとも呼ばれる。室町時代が起源と言われている。100%オーガニック。廃液処理に悩むこともなく、普通に水道に流すことができる。
 色落ち、色移りせず、鮮やかで、色幅が広い。藍独特の抗菌性をもち、遠赤外線効果も認められる。
 絹、麻、木綿はもちろん、従来不可能とされてきたウール(羊毛)を染める事ができる。(化学繊維は染めることができない)
 
 藍は本来水に溶けない。水に溶けない藍を水溶性に変えることで、はじめて藍を染める事ができる。水洗いで酸化させると、再び水に溶けない藍に変わり発色する。
 水に溶けない藍を水溶性に変える方法は2つある。
 ひとつは、苛性ソーダ、ハイドロサルファイト、ブドウ糖を用い化学的に建てる方法。
 もうひとつは、微生物の力を使って発酵させる方法。本建て正藍染めは、「発酵建て」によるもの。
 本建て正藍染めでは、蒅にミネラルの宝庫である灰汁をしっかりと食わせ、そうすることで染液中の微生物が増える。それらの微生物は、水に溶けない藍を水溶性に変え、被染物を染める。藍建ての最中に、石灰や苛性ソーダ、ハイドロサルファイトなどは一切使わない。建ってからは、染液の状態に合わせて、灰汁や麩、貝灰などを使って維持管理する。
 通常の藍甕の寿命は平均3ヶ月だが、正藍の甕は1年以上もつ。
 

蒅(すくも)

木灰


貝灰
 いしかわは、アメリカ在住時代、ウールの藍染に頭を抱えた。ウールは通常の藍染では染まらない。ウールを染めるには80℃ほどの加熱が必要だからだ。様々なリサーチの末、ニューメキシコ州タオスで「ウィービング・サウスウエスト」を営むレイチェル・ブラウン女史が考案したインド産泥藍を使った染め方を採用した。苛性ソーダとハイドロサルファイトを泥藍に加えてペーストを作り、藍色の濃さに応じてペーストの分量を調整し染液を作る方法で、水色から青、紺色に至る藍色のバリエーションを染めることができる。だが、色落ちは激しいし、ウールの劣化も夥しい。これをナチュラルな染めと言えるのか、常に疑問だった。しかし当時ウールの藍染めはこれが最善と思われた。
 その後日本に帰国し、ウールを染めることのできるオーガニックな藍染があることを知る。それが今は亡き大川公一先生(栃木県佐野市)が指導する本建て正藍染めだ。熱を加えないでウールの藍染めができる事も大きな驚きだったが、染めた藍色が全く色落ちしないのには深く感動した。
 2019年10月、いしかわは7日間の講習を受け、本建て正藍染めの技術を習得する。しかし、別名地獄建てと呼ばれる通り、本建て正藍染めは容易でない。蒅と灰汁で藍を建てること自体も、建った藍を維持管理することも、一筋縄ではいかない。それからは悪戦苦闘の連続だった。予期せぬことが起こるたびに、先輩にアドバイスを求めた。ナバホチュロ羊毛の糸を藍色のバリエーションに染め上げる事ができるようになったものの、本建て正藍染めは現在も修行中である。
 
本建て正藍染め
本建正藍染めの糸 60円/1g~
(藍の濃さによる。詳細はお問い合わせください)